ちょス飯の読書日記

 『遊戯神通』    ★★☆☆☆

遊戯神通 伊藤若冲

遊戯神通 伊藤若冲

 一昨年上野の都立美術館での若冲生誕300年展に、夫婦で行ったがあまりの長蛇の列に驚き足が痛くて立っていられないので、断念した。
 後日夫は、始発電車で見に行ったがこれまた人人人。よく絵を見られなかったそうだ。
 私も、こどもの美術の教科書に載っていた鶏の絵に驚くまで若冲を知らなかったが、以来いつかは生で見てみたいと夢見るようになった。
 
 この本は、若冲の代表作とも言える数点の絵にまつわる彼の身辺の物語。

 若冲に人物画がほとんどなく、とくに女を描いた絵が残っていないことから、彼は生涯独身で童貞だったのだろうと私は推理していた。しかし、作者が多数の資料を調べたところ、彼に、結婚はしなかったが長崎に逗留中に知り合った遊女との間に男子がいたと書かれていたので、驚いた。

 若冲が絵を描く以外にも、市井の人として周りを大切にしてきたことや、錦市場の問題解決に骨を折ったことや農民を助ける活動をしていたこと、大火事で何もかもを失ってもまた再び、絵を描き始めたことなどは、素晴らしい。

 作品をカラーで紹介してほしかった。

 『千日のマリア』  ★★★★★

千日のマリア

千日のマリア

 50過ぎの女たちの恋愛や生活の喜び、哀しみの短編集。どの作品も、とても静かで重みがあり読みやすかった。

 表題作は、娘婿に尽くした義母の慈愛強さを描いている。憎しみに克つのは、許しなのかもしれない。
 とくに、「修羅のあとさき」「凪の光」が良かった。

 前者は愛する人に突然振られて、発狂してしまう娘の物語だが、彼女はずっと夢の中にいて、大きな屋敷に住んでいる。そして、彼にラブレターを書き続けているのだった。
 しかして、その実態は。

 怖くて哀れで、切ない物語だ。

 後者は青春時代に友人を傷つけてしまった主人公知美が、卒業から30数年を経て介護施設で出会い、苦い思い出を昇華させていく物語だ。傷つけられたはずのより子は学生時代そのままに、まっすぐ明るく人生を歩んでいた。

 最後の場面が印象的。小鳥の命が愛おしくなる。