ご近所の老婆が一週間も前に、亡くなっていた

 先日柿を持って、すぐ近くに住むおばあさん(94才)のお見舞いに行くと、「明日退院する」と山の上に住んでいる二番目の息子が迎える準備に来ていた。同居している長男(推定70代)は、知的障がい者なのか、嫁もいない。ご近所の人とも、話すことができない。

 おばあさんは、道端でchosu-manmaを見かけると、にこにこして「家族は元気か、田舎の実家の皆は元気か」などと必ず言うので、「はい、元気でやっております」とそのたびににっこりして応えていたが・・・。

 「chosuは、大きくなったか、顔を見たい」といわれると、ぎくり。ぎゃふんとなった。大学を出ても、非正規のアルバイトをしていますとは、他人に、なかなか言いたくない。

 また、chosuが人目を気にしてばかりいる。ママばかりを愛して、休みにはずっとアニメとゲームだけで過ごしているとは、言いたくない。

 おばあさんの、二番目の息子と孫達は優秀である。彼らの自慢も辛抱強く聴いて、褒めちぎってあげるchosu-manmaだが、同じ話は何度も聴きたくない。

 なるべくつかまらないようにしていた。

 相手の家族が成功している話は、自分が子育て失敗の母親だと見透かされている気がして、彼女を憎んでいたのだった。

 
 おばあさんは、3ヶ月前に自宅の階段で転び、骨折して入院したという。
 内蔵も頭もしっかりしているから、退院できたが、「寝たきりになるだろう」と次男は言った。

 翌日見舞いに行くと、見よ。

 小さいおばあさんが、その半分くらいになっていた。立って歩いている時と、横になっている顔はまったく別人のようだ。
 ゾンビ、生きるしかばね・・・なんと醜い小さなお顔。

 だが、耳の遠いおばあさんに顔を近づけて、「おばあさんの好きなヤクルトを持って来たよ」と見せると、嬉しそうに表情が変わった。

「いつも遊びに来て、と言ってくださったのにこんな時に、来ることになり申し訳ありません。」「ああ、chosu-manmaさんか、また遊びに来て頂戴ね」という。

 「どうぞ、お元気になってください」とおばあさんの小さな手を握ると、温かかった。

 しかし、「またおばあさんに会いにいくこと」は無かった。おばあさんはどうしているかな、もう介護施設に入ったかもしれない、と思っていたら近所のお店のていちゃん(仮名)が、もうおばあさんは亡くなり、家族葬をしたのだと教えてくれた。自分も子どものころお世話になったので、お見送りしたかったが、と。

 足を折って歩けなくなるまで、おばあさんは主婦として家事をこなし、料理、洗濯、布団干し、庭には一本の雑草も生やさず・・・息子の世話をし続けていたっけ。
 便所サンダルのような形の、裏にぼつぼつの出ている大きな履物でよちよちと買物に出るので、心配で手を引いて歩いて上げた事もあったが・・・

 誰彼と無く、声をかけて家族自慢を聴かせていたおばあさん。一度つかまると話が長いので、皆相当辟易していたことだろう。
 誰も、「長男は、どうして働かないのか、あなたが嫁と仲が悪いのは何故?」とは尋ねなかったことだろう。

 長い長い生涯を、おばあさんはあっけなく終えた。

 もう、彼女を憎むことはやめる。