ちょス飯の読書日記

 『言霊』  ★★★★★
 

言魂

言魂

 免疫学の博士と石牟礼の往復書簡集。
 ふたりとも病む体に、健やかな魂と言葉を持っている。それにしても、石牟礼は小学校、実務中学でしか学んでいないのだが、この教養の深さ広さ、懐の大きいことはどうだ。

 半身不随となり前立腺がんの治療の苦しみに耐えて、多田は彼女からの手紙に力づけられ回復して行く。奥様の介護もいかばかりであっただろうか。

 『葭の渚』   ★★★★★

葭の渚 〔石牟礼道子自伝〕

葭の渚 〔石牟礼道子自伝〕

 よしのなぎさと読む。
石牟礼道子自伝。祖母が気狂いであったこと、最愛の弟が鉄道で事故死していることが書かれている。
 弟はチッソの社員であった。精神科に入院していたというが、彼が家に結婚相手を連れてきた時の喜びが、あとで哀しい。

 彼女の母方の祖父が、道路を建設するのだが当時は公共工事とされなかったのか、彼自身の持っていた山を売っては、人夫を雇い工具を買っていたという。
 羽振りが良かったのに、結局道子が9歳のときに、最後の道路を完成させて、大きな家を手放し、とんとん村へ引っ越したという。

 多くの村人のために道路を作るのだが、自分の財産を増やすことには無頓着だった祖父。そして、家族から離れて愛人宅で暮らすようになる。

 祖母の発狂は、道子の母が10歳の時だったという。そのとき道子の母は、「これからは自分が、母親にならんば」と決意したと。
 
 家族に気狂いの人がいても、村の衆は助けてくれる。後ろ指を指している人もいただろうが、とくに売春宿の親孝行な娼婦たちは、このばあさまを可愛がるのだった。最下層に暮らす人々のいたわりや、助け合い、情け深さに涙。

 道子の父も、気狂いの義母を大切にしていた。淫売と呼ばれる娘が、刺殺されたときも彼が解剖に立会い、弔いまでしたという。合掌

 石牟礼道子氏の、熱情慈悲深さはやはり先祖から受け継いでいたのだろう。